カール・ヴァン・ヴェクテン『ニガー・ヘヴン』(未知谷, 2016)

ハーレム・ルネサンスのパトロンであったことで知られるアメリカの作家/音楽評論家カール・ヴァン・ヴェクテンが、1926年に出版した小説『ニガー・ヘヴン』を翻訳しました。

時代背景、著者と黒人文化の関係、差別語を含むタイトルの衝撃、黒人文学界の反応とスキャンダルなどについて、本書「解説」で書いています。以下、抜粋。

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「たしかにヴァン・ヴェクテンの関心は、人種問題解決の手段として文学の可能性を信じた黒人知識人とは異なる対象に向いていたが、黒人性を一元的な資質に帰して理解する態度とは一線を画し、むしろハーレム内部の多様性に鋭い観察眼を発揮した。

例えば、空き地でクリケットをする西インド諸島出身の男たちをみつめるメアリーの眼差しを描いたくだり、スノッブなオルブライト家の母娘がアフリカ彫刻や黒人霊歌の魅力を素直には認めようとしないこと、リズム、豊かな色彩感覚、情熱的性質といった「黒人的」個性を誇らしく思うメアリー本人が恋愛に奥手で、キャバレーやダンスもあまり好きになれず、どうして他の人と同じように本能や衝動に忠実でいられないのだろうと自問する場面などは興味深い。

また、人種の境界で生きる者たち——経済的優位や社会的承認を得るために白人として生きる者、白人とだけ交際する「ピンク・チェイサー」、黒人びいきの白人「ジグ・チェイサー」にも光が当てられている。さらに、ハーレムのナイト・ライフにおけるクィアな客の存在、彼たち・彼女たちの集まるキャバレーの名称、黒人たちのなかに根強くある同性愛嫌悪などが書き込まれていることも見逃せない。

『ニガー・ヘヴン』は白人と黒人のモダニティを架橋するだけでなく、ハーレムにおける黒人文化とクィア文化の交差する地点、人種・セクシュアリティの多様性をも浮き彫りにしている。」(「解説」より)

書評:

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/12511(東琢磨さん)

https://allreviews.jp/review/4229(旦 敬介さん)

Michiyo translated into Japanese the novel Nigger Heaven (1926), written by American writer/ music critic Carl Van Vechten, known for being a patron of the Harlem Renaissance.

The book also includes a commentary explaining the historical background, Van Vechten’s relationship with black culture, the impact of the title containing pejorative term, and the reaction and scandal which occurred in the black literary community.